もくじ
ウィルコムの「高度化PHS」規格に対応したサービス「W-OAM」「W-OAM typeG」について。
概要
WILLCOM Optimized Adaptive Modulationの略で、ウィルコムが提供する高度化PHS規格に対応したサービス。PHSの通信で用いられる変調方式を、複数のものから切り替えることが出来る様になっており、電波条件により適したものを利用出来るようになる。2010年現在、第1弾「W-OAM」、第2弾「W-OAM typeG」が提供されている。
W-OAM、およびW-OAM typeGなどの利用に特別な料金は必要としないが、対応端末が必要で、基地局側の対応が無ければ恩恵を受けられない。逆に言えば恩恵を受けられないだけで、きちんと互換性 (上位互換) があるので安心して利用することが出来る。
なおウィルコムは、これとは別にOFDMAやMIMOといった技術を取り入れた「XGP (次世代PHS)」を開発している。
W-OAMとは
「W-OAM」は、従来のπ/4シフトQPSKに加え、π/2シフトBPSK、D8PSKの3種類の変調方式に対応している。これにより基地局及び通信端末が対応していれば、最大通信速度の向上(最大通信速度が上下ともに1RFとなる4xパケット通信で408kbpsとなる)、通信の安定性の改善が見込まれる。「データ通信向けサービス」だが、音声通話においても安定性の向上の恩恵は受けられる模様 (WILLCOM|RX420ALの【音声通話のイメージ】参照)。
2006年2月23日に対応端末AX420N・AX520N (データ通信カード端末) の発売と同時に提供を開始した。また2006年12月14日には初の対応電話機「9(nine)」(RX420AL同梱) が発売となっている。
W-OAM typeGとは
さらに2007年1月には切り替え可能な変調方式を更に追加した「W-OAM typeG」が発表され、同年4月5日発売の対応端末AX530INよりサービスが開始されている。
変調方式にQAM(16QAM・32QAM・64QAM)を追加することで最大通信速度の向上を図り、その切り替えをより綿密に行うことで効率を改善*1、そしてAIR-EDGE最大の欠点といわれている往復遅延時間 (RTT:Round Trip Time) の改善も達成した。RTTは、typeG対応の初期型基地局でおおよそ100ms程度が実現 (デジタルARENAに掲載されたレビュー記事にRX420AL利用時との比較表がある)、IP化対応の高度化基地局ではさらに50msを目指すとしている (今日のウィルコム081110 - PHS-MOBILE.COMでは70〜100ms程度)。
ちなみに、typeGの“G”には、途中でバックボーンが光IP化されることにより最大通信速度が向上することによる「成長(Growth)」の意味が込められているとのこと。W-OAM typeGにおける最大通信速度については以下にまとめた。
プレスリリース一覧
- 高度化PHS基地局(IP対応)の量産開始および次世代PHS基地局開発について(京セラ)(2007/11/9)
- WILLCOM|山形県新庄市(本合海地区)における高度化PHSでの環境整備について(2008/2/15)
- IP化対応基地局導入
- WILLCOM|PHS高度化通信規格「W-OAM」の高速化について (2007/1/22)
- WILLCOM|データ通信サービスの高速・快適化について〜PHS高度化通信規格「W-OAM」の導入〜 (2006/1/27)
理論最大通信速度
変調方式 | PHS | W-OAM | W-OAM typeG | ||||||
1x | 4x | 8x | 1x | 4x | 8x | 1x | 4x | 8x | |
64QAM | − | − | 約100kbps 64kbps | 約400kbps 256kbps | 約800kbps 512kbps | ||||
32QAM | − | − | 約80kbps 64kbps | 約320kbps 256kbps | 約640kbps 512kbps | ||||
16QAM | − | − | 約62kbps | 約250kbps | 約500kbps | ||||
8PSK | − | 51.2kbps | 204.8kbps | 409.6kbps | ← | ||||
QPSK | 32kbps | 128kbps | 256kbps | ← | ← | ||||
BPSK | − | 12.8kbps | 51.2kbps | 102.4kbps | ← |
- *1: 数値は理論値で、条件が良くてもこの数値までは出ない。各通信方式はベストエフォートとなる。
- *2: エントランス回線 (基地局⇔交換設備間の回線) のIP化に対応していない基地局では、その回線がボトルネックとなり、8xで512kbps、4xで256kbps、2xで128kbps、1xで64kbpsに制限されている (表で2段になっている部分の下段)。
- *3: スロット連結により64QAM・2RF (8x相当) で最大1〜2Mbpsまで拡張されることがエイビットおよびネットインデックスにより示されている。ただし、ウィルコムからはそういったロードマップは公開されていない。
- *4: BPSK/8PSK時の理論最大通信速度はJRC日本無線 技術情報 No52 W-OAM対応PHS端末の開発より。13ページに、64QAM/4x時は最大384kbpsという数字が載っている。またPHS MoU Group Newsletter Issue 66 P3には1スロット (1x) 当り最大99.2kbpsという数字もある (8xで793.6kbps)。
エリア
2006年11月14日に開催されたウィルコムの事業説明会時に公開されたW-OAM対応エリアマップ。これ以外には公式にはW-OAM対応エリアマップは公開されていない。ただし、ウィルコムサービスセンター(116)に電話して具体的な場所(スポット)が対応しているかどうかを聞くことはできるようである。
2007年4月12〜13日に開催された「WILLCOM FORUM & EXPO 2007」で、W-OAM対応エリアマップのうち首都圏のもの。赤が対応エリアで、緑のエリアにも対応基地局が点在しているという。
対応チップセット
現在、対応チップセットを沖電気とエイビット(ABIT)の2社が開発・製造している。W-OAM対応のものとしては、「AX520N」や「RX420AL」などに搭載されているエイビット製「AX20P」、音声機種「WX220J」「WX320K」「WX321J」に搭載されている沖電気製「ML7257」がある。W-OAM typeG対応のものは、エイビット製「AX30P」(2007年7月サンプル出荷開始)がある。
チップセット | メーカー | 対応通信方式 | 搭載機種 |
AX20P | エイビット | W-OAM | RX420AL、AX520N、AX420N、AX420S |
AX30P | エイビット | W-OAM typeG | |
ML7257 | 沖電気 | W-OAM | WX220J、WX320K、WX321J |
レビュー・記事
- 高度化PHS「W-OAM」に音声端末として初対応! ウィルコム「9 (nine)」 / デジタルARENA
- ITmedia +D モバイル:「赤耳」はどれくらい速いのか?――「W-OAM」対応W-SIMを試す
- ウィルコムの「W-OAM」、従来比“1.6倍”の実力は?:RBB TODAY (ブロードバンド情報サイト) 2006/02/16
ロードマップ
2008年5月27・28日の両日開催された「WILLCOM FORUM & EXPO 2008」にて、現行PHSの更なる高速化についても発表された。以下、ケータイWatchなどの報道をまとめる。
- 【WILLCOM FORUM & EXPO 2008】 ウィルコム近氏、現世代PHSの下り3.2Mbps化に言及(ケータイWatch)
- 【WILLCOM FORUM & EXPO 2008】 次世代PHS向けコンセプトモデルなどPHSの最新動向を紹介(ケータイWatch)
(更なる) RTT改善
プレゼンテーションにて、基地局のIP化 (光化) と共にRTTの更なる改善も公表された。2008年度積極的な設置を行うとしているIP化対応基地局では、(W-OAM typeGで) RTTを50ms程度にまで改善するとしている。
W-OAM typeG 4x対応W-SIM
2009年11月現在、W-OAM typeG対応端末は依然としてPCカード型のみとなっている。2010年1月発売予定であるHYBRID W-ZERO3に、W-OAM typeG対応のW-SIM「RX430AL」(アルテル製) が同梱される予定になっている。PCカード型端末は8x、理論最大800kbpsであるが、RX430ALは4x、380kbpsになる*2。
W-OAM typeG 16x(仮称)
この項の内容については検討中とのことで、実用化時期は未定。
AX530INはチャネルを8本束ねることで (「8x」) 理論最大800kbpsを実現しているが、将来的に16本束ねた「W-OAM typeG 16x(仮称)」により理論最大1.6Mbpsとなるものを検討しているという。
W-OAM typeAG 8x(仮称)
この項の内容については検討中とのことで、実用化時期は未定。
ハードウェアに大きさの制限があるW-SIM向けに、下りのみを高速化した「W-OAM typeAG 8x(仮称)」を検討しているという。8チャネルを束ねることで下り800kbpsを実現するとしている (上りについては言及なし)。
W-OAM typeAG 32x(仮称)
この項の内容については検討中とのことで、実用化時期は未定。
下りのみを高速化した「W-OAM typeAG 8x(仮称)」を4つ束ねることで、下り3.2Mbpsを実現する「W-OAM typeAG 32x(仮称)」も提示されている。少なくともこのレベルまでは『技術的な目処がたっている』という。
対応端末一覧
W-OAM typeG
- AX530S
- AX530IN
- RX430AL
- HYBRID W-ZERO3(WS027SH)に同梱。
- これ以外のW-SIM対応端末でも、RX430AL利用でW-OAM typeGが利用可能な場合がある。
W-OAM
- HONEY BEE 3(WX333K)
- WX330J E
- BAUM(WX341K)
- WX340K
- WX330J
- HONEY BEE 2(WX331KC)
- X PLATE(WX130S)
- 変調方式BPSKのみ
- HONEY BEE(WX331K)
- WX330K
- WX320KR
- WX320T
- WX321J
- WX320K
- WX220J
変調方式の概説
この項はWikipediaの「デジタル変調」を元にした。
PSK (Phase Shift Keying)
位相偏移変調。一定周波数の搬送波の位相を変化させることで変調する。変化した位相の種類を増やすことにより、変調1回あたりの送信ビット数を増やすことができる。
- BPSK
- 一回の変調 (1シンボル) で1bit伝送するもの。W-OAMではπ/2 shift BPSKが用いられており、W-OAMに関する記事ではこの意味で用いられる。
- QPSK
- 一回の変調 (1シンボル) で2bit伝送するもので、位相変化を4値とする。PHSではQPSKそのものではなくπ/4 shift QPSKが用いられており、PHSに関する記事では後者の意味で用いられていることが多い。一回の変調 (1シンボル) 毎に互いに45度 (π/4ラジアン) 位相の異なるQPSKを交互に用いるQPSK。PDCでも用いられている。
- 8PSK
- 一回の変調 (1シンボル) で3bit伝送するもので、位相変化を8値とする。W-OAMではD8PSK (Differential 8-Phase Shift Keying) が用いられており、W-OAMに関する記事ではこの意味で用いられる。
QAM (Quadrature Amplitude Modulation)
直行振幅変調。多値の振幅偏移変調 (ASK) を直交位相変調することで、位相変化と振幅変化を組み合わせた変調方式である。1シンボルあたり送れる状態数を多くできるため伝送効率が良いのが特徴であるが、反面シンボル間の振幅・位相距離が近くなるため、必要とするC/N (搬送波電力対雑音電力比) 比はPSKなどに比べると高い。シンボル当たりの状態数に応じて16QAM、64QAM、256QAMなどと呼ばれる。16QAMは1シンボル当たり4bit、64QAMは同6bit、256QAMは同8bitとなる。
一行コメント
- ご意見&感想およびタレコミ大歓迎!
- 2010-03-29 (Mon) 18:51:42 はいぶりー
- 2007-04-18 (Wed) 00:36:26 W-OAM化は基地局によって決まります。郊外でも、初代基地局が故障したなどの理由で新しくなることもあります(^^; でも壊しちゃダメよ(^^
- 2007-03-31 (Sat) 15:10:08 ウィルコムが首都圏のマップしか公開していない理由を考えれば、地方での対応はまだまだでしょう。全国の対応状況なんて公表したら、イメージダウンになるぐらいの現状でしょうね。
- 2007-03-11 (Sun) 22:55:37 本日、9を使い高速化OFFの設定でスピードテスト( http://homepage2.nifty.com/oso/speedtest/ )を使って測定した所、静岡市駅ビル(パルシェ)内で、80〜90kbps overを記録。同じ機器設定で静岡市長沼辺りでは53kbpsの速度しか出なかった。W-OAM化は首都圏だけではなく地方都市でも進んでいるのでしょうか。
*1 W-OAMとW-OAM TypeG - PHS-MOBILE.COM
*2 PHS高度化通信規格「W-OAM」の高速化について(WILLCOM)などでtypeG・8xが「最大約800kbps」と表記され、技術参考展示 RX430AL(エイビット)には380kbpsという数字がある。8xは4xを2つ束ねただけなのでぴったり2倍となるはずである。この差は384kbps@4x、768kbps@8xをまるめた表現となっている模様。